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最高裁判所第二小法廷 昭和58年(オ)1202号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岸本亮二郎の上告理由について

土地又は建物(以下「土地等」という。)の所有権の移転を目的とする仮登記担保契約に関する法律(以下「法」という。)一条にいう仮登記担保契約の債権者(以下「仮登記担保権者」という。)は、右契約の相手方である債務者又は第三者(以下「債務者等」という。)に対し法二条一項の規定による通知をし、その到達の日から二月の清算期間を経過したのちであつでも、法五条一項に規定する先取特権、質権若しくは抵当権を有する者又は後順位の担保仮登記の権利者(以下これらの者を「後順位担保権者」という。)のうち同項の規定による通知(以下「五条通知」という。)をしていない者があるときには、その後順位担保権者に対しては、法二条一項の規定により土地等の所有権を取得した旨を主張して、仮登記に基づく本登記についての承諾の請求(不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項参照)をすることはできないものというべきであり、また、五条通知を受けていない後順位担保権者は、清算期間の経過したのちにおいても、法一二条の規定の類推適用により土地等の競売を請求することができるものと解するのが相当である。けだし、法が後順位担保権者に対し五条通知をすべきであるとしている趣旨は、後順位担保権者が通知に係る清算金の見積額(清算金がない場合を含む。)に拘束される関係にかんがみ、その拘束を甘受するか(清算金がある場合は、法四条の規定により清算金に対しその権利を行使するか)、又は法一二条の規定により競売を請求して売却代金からの配当を期待するかの選択をなしうるようにし、もつて、仮登記担保権者と後順位担保権者との利害の調整を図るところにあると解されるところ、後順位担保権者が五条通知を受けていない場合であつても清算期間の経過により法一二条の規定による競売の請求ができなくなると解し、かつ、仮登記担保権者が五条通知をしなかつた後順位担保権者に対しても仮登記に基づく本登記についての承諾の請求をすることができるものと解するときには、五条通知を受けていない後順位担保権者を著しく不利な立場に置き、法五条一項の規定の趣旨を没却することとなるからである。そして、仮に土地等が競売されたとしても、当該競売による売却代金で共益費用たる執行費用、仮登記担保権者の被担保債権及び五条通知を受けていない後順位担保権者の被担保債権に優先する債権を弁済するときには剰余を生ずる見込がないとの事由は、右後順位担保権者に対する五条通知を不要ならしめるものと解すべきではなく、仮登記担保権者は、右事由があるとのことをもつて、五条通知をしていない後順位担保権者に対し、仮登記に基づく本登記についての承諾の請求をすることはできないものというべきである(なお、民事執行法六三条二項本文(同法一八八条で準用される場合を含む。)の規定により競売手続が取り消された場合には、後順位担保権者に対する通知を欠いていたときであつても、仮登記担保権者は当該後順位担保権者に対し仮登記に基づく本登記についての承諾の請求をすることができるものと解するのが相当である。)。

本件において、原判決は、右と同旨の見解に基づき、〔一〕 (1) 第一審被告有限会社生興商店(以下「生興商店」という。)は、昭和五二年九月一〇日、上告人との間で、生興商店が上告人に対して負担する金銭債務を担保するため、その不履行のときは弁済に代えて上告人に一審判決添付物件目録〔一〕記載の建物の所有権を移転する旨の代物弁済の予約をし、同年一〇月一七日、同建物につき上告人のため所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、さらに、同年一一月一八日、右と同内容で同物件目録〔二〕記載の建物(以下右〔一〕、〔二〕の建物を併せて「本件各建物」という。)につき代物弁済の予約をし、同年一一月二五日、同建物につき上告人のため所有権移転請求権保全の仮登記を経由した(以下右の各仮登記を併せて「本件担保仮登記」という。)、(2) 被上告人は、生興商店との間で、本件各建物につき、本件担保仮登記の登記がされたのちである昭和五六年七月七日、根抵当権設定登記を経由した、(3) 上告人は、昭和五七年三月一七日、生興商店に対し、代物弁済予約完結の意思表示をするとともに、二月の清算期間が経過する時の本件各建物の見積合計価額(六四五〇万円)、被担保債権額の合計(貸付金九〇〇〇万円、売買代金三〇二万二二〇〇円、防災施設分譲未収金一一六万一九〇〇円等)及び清算金がない旨の通知(法二条一項の規定による通知)をした、(4) 上告人は、後順位担保権者たる被上告人に対し、五条通知をしていない、との事実を確定したうえ、〔二〕 上告人は、右のとおり五条通知を被上告人にしていないから、本件代物弁済予約完結の意思表示及び法二条一項の規定による通知を生興商店にした日から二月の清算期間を経過したとはいえ、被上告人に対し、右代物弁済予約完結による本件各建物の所有権取得をもつて対抗することはできず、本件担保仮登記に基づく本登記についての承諾の請求をすることはできない、と判断しているのであるから、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 大橋 進 裁判官 牧 圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島 昭)

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